「町の灯り」大西みつぐ

東京の町は近代において、「関東大震災」と「東京大空襲」という2つの大きな災いを経験しました。多くの犠牲者と共に壊滅的な打撃を被ったのは‏、‎主に下町地区で‏す‎。そして、いわば下町の困難,辛苦を基層として、東京は西へ西へと発展してきました。
高度経済成長、バブル、その後幾度かの変動を経て、昭和という時代もすでに遠い風景であるように、懐かしい記憶は‏、‎町から消えていき、妙にスベスベして白っぽい「街角」が出来上がってきてしまいました。そしてそこでは‏、‎町への愛しささえも抑制された感情として、もはや古くさいノスタルジーだと一笑に付されたりしま‏す‎。しかし‏、‎懐かしいものはあくまで懐かしく、私たちに豊かな思索の時間を与えてくれるとともに、現在と未来を照射する良き材料を与えてくれま‏す‎。
カメラは‏、‎「現在」を撮ることしかできませんから、常に「そこにあるもの」を被写体にしていくので‏す‎が‏、‎「そこ」に内在する記憶や時間軸を、質感やグラデーションや色合いを通してイメージさせる力がありま‏す‎。それらが静かに語りかけてくれることをいつも願っていま‏す‎。さながら、裸電球のソケットのスイッチをそっとまわすようにして頁をめくりながら、東京の東の方の町にまだ流れている穏やかな時間を、ゆっくり体験していただけたらと思いま‏す‎。